「地方分権」とは、政治において統治する権利を地方公共団体に分散させることを言います。
しかしそれだけでは具体的に地方分権が何であるのか理解できていないと言う方も少なくないでしょう。
今回は、以下の内容について解説します。
- 地方分権の目的
- 地方分権の具体例
- 地方分権改革について
- 地方分権のデメリット
この記事を読むことで地方分権に対する疑問が解消されます。
本記事がお役に立てば幸いです。
1、地方分権とは
地方分権とは国が持つ政治面における決定権や財源を地方公共団体に移し、「地方の課題は地方で処理する」と言う体制を構築することを指します。これにより地方公共団体はその地域固有の規則を作ることができるようになります。
地方分権の主な目的としては地域に寄り添った行政サービスを実現することです。地域に寄り添うとは、その地域の実情を考慮し、そこに住む住民のニーズを汲み取る事を指します。
こうした地域に寄り添った取り組みを推進するために地方分権には、「提案募集方式」という手法が導入されています。提案募集方式とは、国が地方公共団体からの提案を受け、その提案の実現に向けて検討を行っていくというものです。
ちなみに地方分権の対義語は中央集権です。中央集権とは、中央政府に権力が集中している状態を指します。
(1)地方分権の目的
地方分権には主に6つの目的があります。詳しくみていきましょう。
①資源分散
1つ目は資源(人や財源)の分散です。
権限を地方に委譲し、地域住民がより暮らしやすい環境作りを促進することで、過度な都心部への資源の一極集中を緩和することが期待されています。
それではなぜ、都心部への一極集中を緩和したいのでしょうか。理由は、都心部で災害などが発生した際に、日本と言う国の機能が麻痺してしまうことが想定されるからです。
こういったリスクへの対策が1つの狙いになります。また一極集中が進むことにより、都心部以外の地方の衰退が加速していくことが考えられます。
具体的には、若い世代が地方から離れることにより、地方における出生率の低下や、高齢者だけが地方に取り残されるといったような状況を招く可能性があります。
こういった都心への過度な集中を改善し、地方における人口の減少を防ぐ考え方は地方創生とも呼ばれています。
②少子高齢化への対処
2つ目は少子高齢化社会への対処です。日本は現在、出生率が低下しており、人口に占める高齢者の割合が大きい「少子高齢化社会」となっています。
この少子高齢化に対処するために、国が政策などの大きな方策(出産をサポートするような政策など)を作ります。
ただ、実際に政策を実施するのは国ではなく、地方公共団体になります。
地域住民のニーズや地域特性を考慮し、政策を実施するのは地方公共団体の方が適しているからです。
この課題は従来の中央集権体制では対応が困難であり、地方公共団体が率先して対処し福祉サービスを充実させる必要があります。
③中央政府の負担軽減
3つ目の目的は中央政府の業務を分散させ、負担を減らすことです。政府の仕事は多岐に渡り、1つ1つの仕事量も多いため、仕事の負担が大きいのです。
ですから、地方のことは地方に任せることで、中央政府の負担を軽減すると言うのが地方分権の大きな目的になります。
これにより政府は、日本経済の成長や国防の強化などといった国全体が関わる事柄に、より力を注ぐことができます。
④地方と国の関係の水平化
各地方により大きな権力を与えることで「地方のことは地方で行う」と言う地方自治が行えるようになります。
これにより、中央政府は自治体への関与ないしは干渉の頻度が減少します。こうした地方自治の促進により、地方自治体は住民のニーズに寄り添ったサービスを自ら考え、その実現もしやすくなります。
国から地方へのトップダウン型の関係でなく、国と地方とが対等な関係を築くことは地方分権の重要な特徴と言えます。
⑤財源の付与
物事の決定権だけでなく、財源の付与も地方分権の大きな意義の1つです。これによって地方公共団体は、より質の高い行政サービスを提供できるようになります。
財政黒字を維持しつつ、健全な行政を続けるためにも、お金は最も重要な要素の1つです。
⑥責任の明確化
問題が発生した時などの責任の所在がより明確になります。地方分権によって、国から地方にある程度、権限が移行されます。
その権限を持って地方自治体は以前よりも独立して自治を行うことができます。何か不祥事などがあった場合にも、「責任がどこにあるのか」が分かりやすいです。
地方分権により、行政の透明化を図ることができるという訳です。
2、地方分権の具体例
具体例をいくつか取り上げていきます。
神奈川県川崎市ではバリアフリー化を推進していましたが、全国一律の基準(横断歩道に接する歩道の段差は2センチに定められていた)に合わせると車椅子利用者にとって不便になるなどの状況が発生していました。
そこで川崎市独自の基準を制定することで、この問題を解消することができました。これは地方分権改革における「義務・枠付けの見直し」の成功例です。
また、鹿児島県では全国一律の基準(特別養護老人ホームでは原則1部屋に1人が定員人数であった)を適用してしまうと特別養護老人ホームの入所者の経済的負担が重くなるという状況にありました。
僻地や離島の住民は全国と比較すると所得が低い傾向にあったためです。そこで県独自の基準を制定(定員数の増加)することで、1人にかかる経済的負担を軽減させることができました。
これらは内閣府の地方分権における取り組み事例集にて取り上げられています。
事例からわかるように、地方分権が進むことで実際に地域住民の暮らしがより豊かなものになる可能性があるのです。
3、地方分権改革の流れ
日本において、地方政府に力を分散させる考え方が広まる契機となったのが「地方分権改革」です。
地方分権改革とは、中央集権体制であった日本において権力を地方に与えて、地方分権体制を推進しようとする改革のことです。
この改革は、以下に挙げる2つに分けられます。
- 第一次地方分権改革
- 第二次地方分権改革
それぞれについて確認していきましょう。
(1)第一次地方分権改革
この第一次地方分権改革は衆議院、参議院の両院による「地方分権の推進に関する決議」(平成5年6月より)より始まりました。
この第一改革における重要な点は以下の4つです。
- 地方分権一括法の制定
- 機関委任事務の廃止
- 国の関与についての明確なルールの決定
- 権限を国から都道府県、都道府県から市町村に移譲
特に重要なものについて解説していきます。
①地方分権一括法|機関委任事務の廃止
地方分権一括法(平成11年7月より)とは、地方の権限を強くしようと言う目的で、国と地方公共団体との関係性などについて定めた法令になります。
この地方分権一括法により、「機関委任事務」が廃止され、「法定受託事務」と言う形になりました。
機関委任事務とは、国が地方公共団体に指示していた強制的のある事務のことです。その量は膨大なもので、地方公共団体は、機関委任事務の処理に追われていました。
このことから、国には地方公共団体に対する包括的な指揮・監督権があったと言えます。
そのような体制になっていた理由は、地方公共団体(自治体)は国と対等な関係ではなく国の部下のような認識があったからです。
その機関委任事務が法定受託事務に変わったことにより、国が指示するのではなく「委託」すると言う形になり、仕事量も削減され、地方公共団体がより自分たちのことに集中できるようになりました。
地方分権一括法はその後第2次、第3次…と変わっていく状況に対応しながら新しくなり、現在は第9次地方分権一括法まで施行されています。
②国の関与の法定化
関与とは地方公共団体の事務の処理方法などについて、細かく管理して指示することを言います。
地方分権改革が進むまでは、この関与について根拠となる法令は不要であり、国はいつでも地方公共団体に関与することができました。
しかし関与が法定化されたことにより根拠となる法令が存在しなければ、国は地方公共団体の事務処理の方法などについて指示をすることができなくなりました。
(2)第二次地方分権改革
第二改革では以下の変更・改善がなされました。
- 地方分権改革推進法の制定
- 地方に対する義務の緩和
- 権限の委譲の推進
- 提案募集方式の導入
- 国と地方とが協議する場の整備
ここでも特に重要な事柄について取り上げていきます。
①地方分権改革推進法の制定
地方分権改革推進法(平成18年12月)とは地方分権をより進めることを目的とした法律です。この地方分権改革推進法の制定からが第二次地方分権改革と呼ばれています。
第二次分権改革では国が地方に義務として取り決めていたことなどを緩和する「規制緩和」や、これまで以上の権限の委譲(都道府県から市町村への)が進められました。
ただし地方分権改革推進法は時限法であるため、平成22年に効力を失っています。その後は現在第9次にわたって施行されている地方分権一括法に引き継がれています。
②提案募集方式の導入
前述した地方からの提案を国が検討し、既存の規則への変更を図る提案募集方式はこの第二次改革にて導入されました。
提案募集方式が導入された背景には地方公共団体の方が、地方の現状を国よりも把握できていると考えられていたためです。
具体的な成功例として、提案募集方式により保育士の配置要件が緩和された事例があるのでご紹介します。
名古屋市瑞穂区の課題として保育士の人員不足とそれに伴う個人への大きな負担が問題となっていました。「保育所には常に保育士を2人以上配置する」と言う従来の制度が大きな負担の一因にあったのです。
そこで地方公共団体が提案募集方式を利用することで、朝夕の保育士の配置について特例(保育士以外に子育て支援員を配置しても良いとされた)が設けられ、人員不足の解消・1人1人の負担の減少が可能になりました。
内閣府の地方分権改革における成果事例集ではこのような成功事例が取り上げられています。
4、地方分権のデメリット
地方分権のデメリットは主に2つ挙げられます。
(1)貧富の地域間格差
1つ目は、地域格差が拡大する恐れがあると言うことです。
各自治体が自由に統治できるようになると、その運営方法に偏りができ、黒字地域と赤字地域の格差が極端に出る可能性があります。
この経済的格差を補うために「地方交付税」があります。地方交付税とは地方公共団体間における財源の偏りを調整するために、国が地方に代わって集める税金のことです。
集められた財源は、一定基準の元再分配されます。
地方分権の主役は地方ですが、政策として実施しているのは国のため、政府がそのデメリットに対処するのは自然な行為と言えます。
地方交付税について更に詳しく知りたい方は以下の関連記事をご覧下さい。
地方交付税とは?財源や算定方法と問題点を簡単解説
(2)自治体の権力が強くなり過ぎる
2つ目は、地方分権改革によって権限が委譲されることにより、各自治体が持つ力が大きくなりすぎる恐れがあるということです。
こうした状況になると、国家レベルでの施策を施工する際に障害が発生する可能性があります。
例えば日本では国防の面から沖縄県に米軍とその基地を設置していますが、県は国の政策に反抗する姿勢を取っておりこの問題は長く続いています。
従来の県や市町村と国のあり方では見られることの無かった事態が、発生する可能性が高まると言えるでしょう。
まとめ
今回は地方分権についての意味や流れについて詳しく解説させて頂きました。
令和に入りますます地方分権は推進されていくと思うので、分権の概念を理解することは現在の政治の状態を把握する上でも助けになるかと思われます。
また県政や市政は私たちの普段の生活とも密接に関わるので、これを機会に目を向けてみると良いかもしれません。
是非参考にしてみて下さい。